なぜ雑誌『世界』は「中国人強制連行の記録」を掲載したか
劉連仁さんの思い出(6)
日中友好協会北海道連 会長 鴫谷節夫
前回、雑誌「世界」の特集について書く中で奇妙なことに気付きました。執筆者の名前がないのです。個人名も団体名もありませんが、実は本文に入る前に5ページ半に及ぶ、★読者へ❘極東の新しい緊張とわが国の未済の戦争責任について❘というメッセージがあります。(以下2ヶ所引用)
読者もご承知のとおり、日米安保条約改訂の交渉がまだ途中のころから、ソ連と中国とは・・はっきりと危惧を表明していたがついに調印と決定するに及んで、・・中ソ両国を仮想敵国とする軍事同盟にほかならぬとし、強硬な反対を表明すると共に・・・・中国における反応がいかに強烈であるかは、先月号に掲載した西園寺公一氏の北京からの報告で明らかである。・・ここに、戦争中わが国が中国の人民に加えた暴虐の一部をあえて発表して読者の注意を乞うのも、極東に発生しつつある緊張について憂慮に堪えないからである・・・
本誌は、新安保条約との関連において私たち日本人が改めて中国との関係を正確に理解し、かりそめにも誤解を生み出さないことを希望して、ここに、戦時中に四万に近い中国の良民が強制的にわが国に連行されて、不足した労働力の補充にあてられ、非人間的な虐待によって六千八百余名の死亡者、八十余名の行方不明者を出した事件についての報告を、読者に紹介することにした。それは、日本人が中国の民衆に加えた暴虐の歴史の一部であり、われわれにとっては今なお苦痛を伴わずには思い出せない事柄である。
冒頭と4ページの下段から引用したが、これで見ると執筆者は「世界」自身❘編集者で読者に呼び掛けた形になっています。しかし、文中には「私たち」が多用されていて、それが執筆者の場合と日本国民を指す場合があります。
「世界」の訴えは、「新安保条約批准国会」における国民的高揚の中で、岸政府が中国に対する戦争責任も果たさず、贖罪も済んでいないのに今また、中国を仮想敵国とする軍事同盟に進むなど許されないし、日本国民もまたその道義的責任を果たさなければならないと呼び掛けるものでした。
(私が持っている「世界」は小樽桜陽高校での同僚・土田耕一先生から頂いたものです。その時紙切れもくださったのですが、それは在学証明書で、右ノ者東京陸軍少年飛行兵学校生徒トシテ在学中軍ノ復員ニ伴ヒ帰郷セシメタル者ナルコトヲ證明ス 昭和二十年八月二十七日 東京陸軍少年飛行兵学校長 戸田 剛 とありました)