日中友好協会の会員でもある小樽在住の童話作家加藤多一さんが、昨年12月に「兄は沖縄で死んだ」という題の本を出版しました。
12月31日付の北海道新聞朝刊の「卓上四季」でこの本を紹介しています。以下はその文章の紹介です。
親しかった人の最期の地を訪れるは、関心はあっても気が重い。ましてや戦争が絡んでいるとなれば、そこに何らかの意味を見いだしがちだ。20年以上にわたって答えを求めようとした人がいる▼小樽在住の童話作家、加藤多一さん(81)だ。近刊のエッセー「兄は沖縄で死んだ」を読ませてもらった。現地に足を運び、太平洋戦争末期の沖縄戦で亡くなった兄輝一(こういち)さんの足跡をたどった▼旅は出身地オホーツク管内滝上町に住む兄の同級生への取材から始まる。「向こうは暖かいからお兄さんは今も生きている」との言葉にほろりとする。同級生はあまり体格が良くなく、戦地に行かなかった。兄との「胸の厚さの差」が運命を分けたことにがくぜんとする▼当時を知るたびに加藤さんの心境が変化する。友軍が住民を殺す。司令官の無責任な言葉が犠牲者を増やす。兄の死は悲しいが、地元にとっては日本国こそ迷惑だった。それは今も変わらないのでないかと。米軍普天間飛行場の移設をめぐる政府とのずれに思いが向いたそうだ▼小欄担当者も沖縄に何度か取材で訪れた。気候も地形も道内とは違うが、親近感を覚える。おおらかで楽天的。気質が通じ合うこともあるが、それだけではない▼加藤さんは「共に被害の側にいる」という。列島の端と端を結びつける何かがあるに違いない。戦後70年の節目ももうすぐ終わろうとしている。2015・12・31
兄は沖縄で死んだ
加藤多一 著
発行所 (株)高文研
定価 本体1600円+税